男性のほうが女性よりも背が高く、身体も大きくなる。なぜ男性のほうが女性より背が高くなり、身体も大きくなる必要があるのだろうか? 男性は狩りにでたり、家族を敵から守るために身体が大きくなったのだろうか? 確かにそういう理由もあったかもしれない。だが、実はもっと重要なワケがあったのだ。

ほかの動物を見ると、外見だけではオスとメスの区別がつきにくい動物もいれば、ライオンやクジャクのようにひと目でわかるものもある。では、この違いはどこからきているのか?

進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、自然淘汰によって生物は進化すると述べた。自然淘汰とは、ある環境に適応した遺伝形質が、次々と子孫へ伝わり生物は進化したというものだ。生物は生きていくうえで、生存競争に勝ち抜き、生き残ることができるように姿を少しずつ変えてきた、ということだ。

生殖活動において、メスは少しでも優秀な子供をつくろうとオスの外見や行動を観察し、慎重に選ぶ。逆にオスは、メスと交尾を行うチャンスさえあれば、たいていそのまましてしまう。

これはヒトの場合にもあてはまる。一般的に女性は好きな男でも、なかなかセックスを許そうとしない。男はセックスをOKしてくれる女性がいたら、たいていはそのままセックスをしてしまうことが多い。

このようにメスがオスを慎重に選ぶのには理由がある。それは、オスとメスの繁殖能力と、それに要する時間と労力の差である。たとえば、1人の男が何人もの子供をつくることは、それほど難しいことではない。オスは複数のメスと生殖活動を行い、自分の精子をばらまけばばらまくほど、たくさん・の子供をつくることができるからだ。しかし、女性が自分の子供をつくるのはそう簡単なことではない。当然、1人の女性が一生のうちに産むことのできる子供の数もかぎられてくる。

ヒトだけでなくほ乳類のメスは、妊娠して出産するまでに、非常に多くの時間と労力を要する。時には、自分の命さえも危険にさらすこともありえる。さらに子育てにかかる時間や労力も加えれば、ばくだいなものになる。反面、オスは精子を放出するだけで子供をつくることができる。精子を放出するための時間や労力など、たかがしれているのだ。

かぎられたなかで少しでも優秀な子供を得るためにメスはオスを慎重に選ぶのである。

女性に対する管理が強くなったもう1つの理由は、男性が権力や財産をもつようになったからだ。

手に入れた権力や財産は、自分の子孫へ伝えたくなる。そのためには、妻が産んだ子供が確実に自分の子供であるという確信を得る必要がある。ほかの男の子供に自分の財産を継がせるわけにはいかないからだ。そんなわけで、女性に対する管理が強くなっていったと考えられている。

そして、このような女性を管理する傾向の強い社会ほど女性の処女性を重んじるようになる。なぜなら、処女はそれまでほかの男とセックスをしていないという証明になるからだ。処女だった女性が産んだ子供は、自分の子供であると確信が高まる。

また、若い女性のほうが処女である可能性が高く、女性は若いほどより多くの子供を産み育てることができる。さらに、男にとって処女や若い女性のほうが、柔順でコントロールしやすいということもある。こうした理由から、処女であることが価値をもっようになったのである。

反対にサルの社会では、すでに子供を産んだことのあるメスのほうが人気がある。なぜなら処女のメスは、本当に子供を産めるのか、また、その子供を育てることができるのかわからないからだ。一方、すでに子供を産み、育てた経験のあるメスならば安心できるというわけだ。年上の女性を好む性にも、こうした心理が働いているのかもしれない。 

女性が発情期(排卵期)をわからなくしたのは、男性からの援助を得るとともにセックスの自由を勝ち取るためであるという説を述べた。

とはいえそれ以降も、なんだかんだと女性は男から長い間セックスを管理され続けてきた。現在でも、女性に対しセックスの自由を認めていない社会が多く存在している。これは別に、ヒトだけのことではない。動物の世界でも同じことが起きている。

なぜ、男(オス)は女性(メス)を管理したがるのかといえば、メスは自分の産んだ子供は確実に自分の子供だと確信できるが、オスは常に、本当にそれが自分の子供なのか確信することができないからだ。このためオスは、メスがほかのオスと浮気しないように監視するようになるのだ。これを配偶者防衛という。

昆虫の中には、交尾したあともほかのオスが交尾できないようにメスとつながったままの状態でしばらく過ごすオスもいる。チョウやトンボが2匹でくっつくように飛んでいるのは、交尾をしたオスがメスをほかのオスから守っているのだ。

また、鳥類のメスも頻繁に浮気をするため、オスは常にメスがほかのオスと浮気しないよう監視している。うかうかしていると、ほかのオスの子供を知らずに育てることになるからである。

ヒトの社会でも、男の浮気は許されても女性の浮気は許されないことが多かった。浮気をした女性は、死刑になっていたこともあるのだ。
 

これまで述べてきたように、女性は発情期(排卵期)をわからなくさせ、いつでもセックスを受け入れることで、男性を自分のところにとどまらせ、男性とのきずなを深め、子育ての援助をさせるなどのメリットを獲得してきた。さらに女性は発情期(排卵期)を隠すことで、男性とのセックス関係を対等なものにし、時には主導権を握ることができるようになったという説もある。

どういうことかといえば、もし女性の発情期(排卵期)がわかってしまうと、男の管理下におかれてしまうからだ。その時期だけ女性がはかの男と浮気しないように、女性への監視が厳しくなる。そのため女性は、ほかの男と浮気をして、より優秀な子供をつくることができなくなる。

要するに発情期(排卵期)がはっきりわかる女性よりも、発情期(排卵期)があいまいな女性のほうが、より多くの優秀な子供をつくることができたので、発情期(排卵期)がどんどんわからなくなっていったというわけだ。女性は発情期(排卵期)を隠すことで、セックスの自由を得たのである。

このようにより優秀な子孫を残すためにメスが浮気をするという行為は、ヒトだけでなく鳥類などでも頻繁に行われている、鳥類もヒトと同じように一夫一妻のつがいを組んで子育てをするものが多い。しかしメスは、パートナーとなったオスの目を盗んで、ほかのオスと頻繁に浮気しているのだ。

そんなわけで鳥類のオスは、メスが浮気をしないように常に監視をしなければならないのである。 

祖先の女性は子育ての協力を得るため、さらには外敵から自分や子供を守ってもらうために、特定の男性を自分のところにとどめておく必要がでてきた。その結果、男性との親和性や絆を強めるために、女性はいつでもセックスを受け入れるようになったのではないかというのだ。そして、発情期(排卵期)があいまいになっていった。

女性の発情期があいまいになっていくと、いつセックスすれば子供ができるのかわからなくなるため、男性は女性のもとにとどまり、何度も定期的なセックスをしなければならなくなる。それは同時に親和性やきずなも深めていく。もし、女性の発情期がわかってしまったら、男性は発情期のときだけその女性のところにとどまり、あとは別の女性のところへ行ってしまう可能性がある。

特定の女性のもとにとどまることは、男性にとってもメリットがある。生まれた子供が、確実に自分の子供であることがわかるからだ。これは、男性にとって非常に重要なことなのである。

一夫多妻のハーレム型の配偶システムをとっているサルの中には、しばしば子殺しが起きることが知られている。メスは妊娠中や子育て中は発情することはない。そんなときに、ハーレムを支配していたオスが、ほかのオスと交代した場合、新しくリーダーとなったオスは、前のオスの子供を殺してしまうのだ。授乳中の子供を殺されたメスは、すぐに発情するようになり、新しくリーダーとなったオスと交尾できるようになるからである。

このように子殺しは、あくまで自分の遺伝子を残すことだけを目的に実行される。種の保存などということは考えていないのだ。自分の遺伝子を残すことがもっとも重要なのである。 

動物に発情期があるのは、子育てにとってもっとも適した季節に子供を産むためだ。また、常に個別で生活している動物は、発情期という本能に動かされて交尾をすることができる。

ヒトの女性の発情期が、なくなった、またはわからなくなってしまったのは、集団で定住し農耕などを実施することで食料を安定的に得ることができるようになり、いつでも子供を産んで育てることができるようになったからだと推測されている。

さらに、知能が発達したことで欲望をコントロールできるよろになり、たんなる生殖活動だけのセックスではなく、快楽や愛情を求めるセックスをするようになったため、発情期があいまいになってしまったと考えられる。こうしたことにつけ加えて、発情期がわからなくなったほうが女性にとって都合がよかったからだという説もある。

要するに女性は、発情期(排卵期)をわからなくすることによって大きなメリットを得るようになったのだ。そのメリットとは、特定の男性を常に自分のところにとどまらせることだ。

ヒトは直立したことで脳が発達した。同時に女性の骨盤は狭くなった。その結果、胎児が十分に育つまで待っていたら頭が大きくなりすぎて出産が困難になるため、はかの動物に比べ未熟児の状態で出産せざるをえなくなったのだ。

未熟児の状態で産まれた子供は、長期間、親の援助なしには生きていくことができない。だからこそヒトの女性は、男性の協力が必要になったのである。
 

ヒトは男女ともに、1年中いつでもセックスが可能だ。言い換えれば、ヒトはいつも発情しているということになる。さらに子供をつくる目的以外のセックスも頻繁に実施する。女性は約28日周期で排卵を繰り返すが、排卵時期以外でもセックスをする。妊娠中や授乳中にも、セックスすることがある。

ほかの動物のほとんどは、発情期にしか生殖活動をしない。それも子づくりを目的にした生殖活動をするだけだ。もちろん、妊娠中や子育て中に交尾をすることもない。さらに発情期のメスは、チンパンジーのように排卵時期になると、性皮が赤く腫れるといった目立つサインをたすことが多い。そのため周りのオスにも、メスが発情していることがわかる。

ヒト以外でも、類人猿の中には発情期がわかりにくいものや、ボノボのように子づくり以外の交尾を頻繁にするものもある。こうした特徴をヒトは進化させてきたことになる。

もっとも特徴的なのは、ヒトの女性が発情期(排卵期)であるサインをださなくなったことだ。基礎体温を毎日計測していないかぎり、排卵日が正確にわかる女性はほとんどいない。排卵日であることを示すサインもださないので、本人だけでなく男性にもそのことはわからない。このため、ヒトはいつも発情しているのではなく、発情期(排卵期)を隠すようになったのだと推測されている。

また、女性は排卵期にそのサインをにおい(フェロモン)として発しているのだが、そのにおいを誰も感知することができなくなったのではないかという説もある。 

ヒトの性行為はたいていキスから始まる。身体の中でも唇は非常に敏感な部分だからだ。

ヒトの唇が敏感になったのは、感覚器官としてのヒゲが退化した結果、その代用として唇の感覚が発達したためだと推測されている。唇が敏感になった結果、単純にキスをすると気持ちがいいので、キスをするようになったのだろうか。

ヒトがキスをするようになったきっかけについては、さまざまな説がある。母親が子供に口移しで食べ物を与えていたことがもとになったというものや、もともと赤ん坊が母親の乳首に吸いつく際の原始的な性衝動であるという説などだ。ヒトが対面でセックスをするようになったことも、キスをするようになった大きな要因だろう。

とはいえ、キスをするのはヒトだけではない。チンパンジーやボノボ(ピグミーチンパンジー)も、あいさつ時や交尾時にキスをすることがある。同様にヒトでもあいさつ時にキスをする習慣のある社会もあれば、セックスのときでさえキスをする習慣のない社会もある。

また、ヒトの唇が赤いのは、類人猿のメスが発情期に赤く腫れさせる性皮の代わりだという説がある。ヒトは直立したことで、女性の性皮が隠れてしまったからだ。その代わりにもっとも目立つ部分にある赤い唇を発達させたというわけだ。現在でも女性は唇をより赤くするために口紅をつける。

男が女性の赤く濡れた唇に魅力を感じるのはこのためなのかもしれない。だからこそキスをしたくなるだ。 

イギリスの生物学者ロビン・ベイカーの『精子戦争』(河出書房新社)によれば、精子には3種類のものがあり、なかにはほかの男の精子を攻撃したり妨害するものもあるというのだ。

3種類の精子とは、通称、エッグ・ゲッター(卵獲得者)、ブロッカー(守り屋)、キラー(殺し屋)である。

エッグ・ゲッター(卵獲得者)は精子全体の6割ほどを占める通常の精子だ。この精子が卵子を受精させる。

ブロッカー(守り屋)の精子は、尾が曲がっていたり、頭が大きかったり、いくつも頭をもっているような奇形の精子群で、精子の通り道をふさぎ、あとからくる精子を妨害するのである。実は、どうして精子の中にこうした奇形のものが多く含まれているのか、不思議に思われていたのだ。もしこれが本当なら、彼らにもちゃんと役割があったことになる。

キラー(殺し屋)は、文字どおりほかの男の精子を攻撃し、殺してしまう精子である。エッグ・ゲッターに似ているが、やや頭が小さい精子で、頭についている化学物質を頼りに、ほかの男の精子を見つけると、その精子の頭を自分の頭で突っつき、毒を注ぎ込むことで殺してしまうのだ。

さらにペイカーによれば、妻や恋人と離れている時間の割合が大きいほど、精子がたくさんつくられているという。なぜなら、妻や恋人といっしょに過ごしていれば、妻や恋人が浮気をして・・ないことがわかる。だが、長い時間離れている場合は、浮気をしているかもしれない。そのため次のセックスでは、浮気相手の精子に対抗するため、たくさんの精子を膣内に射精する必要があるからだ。精子戦争に勝つためには、少しでも精手数の多いほうが有利だからである。